昨年の9月に実施した、神戸での小児甲状腺超音波検査。
すばやく実施して、福島でも報告をさせていただきました。

要請には答えられたと思いますが、学術論文として残すべく、修正を重ねて、振津先生の多大なるご協力を得ながら、
 医事新報掲載にこぎつけることができませんでした。
 
 いまだに、原発事故による健康被害になやむ福島のみなさん、、収束には程遠いなかでの、再稼働や原発輸出という、、、いったいこの国はどうなっているのかと、嘆いているだけでは何もかわりません

神戸での小児甲状腺超音波検査(102名)の試み

1)ろっこう医療生活協同組合 六甲道診療所  2)兵庫医科大学遺伝学

1)谷口敏光  2)振津かつみ

Summary

 原発事故による「放射能汚染地域」(*)ではない神戸で、小児102名(218歳)を対象として甲状腺超音波検査を実施した。所見の大半は嚢胞で、有所見率は68.6%であり、福島県民健康管理調査でこれまでに報告されている結果よりやや高かった。その差は最大嚢胞径3mm以下の小嚢胞の検出率の差よるところと考えられる。数少ない過去の小児甲状腺超音波検査の報告に比して、有所見率の高いことが問題視されているが、超音波断層装置の解像度の精密化によるものと考えられる。また、多発する小嚢胞が数多く観察されたことについても、今後の検討が必要である。

Key Word 小児甲状腺超音波検査 甲状腺嚢胞 

はじめに

東京電力福島第一原発事故の後、福島県では「福島県民健康管理調査」(以下「福島県調査」)の一環として、事故当時18歳以下であった県民36万人につき甲状腺超音波検査を20143月までに1回目、2回目以降は20歳までは2年毎に、以降は5年ごとに生涯にわたり実施する事を決め、福島県立医科大学が中心となり順次地域ごとに検査が進められている。1)20123月末までに38,114人が実施され、中間報告が出された。2)何らかの所見を有したものが、35%を超える結果が報告され、過去の他地域での調査結果と比較して、桁違いに高い有所見率であるとして、「放射線被ばくの影響であるとするコメントもみうけられる。一方で、被検者への結果報告が、簡略な一文のみであることに不安と不満が広がっていることも伝えられている。福島で長年健康づくり活動を展開している「福島中央市民医療生活協同組合」(福島中央市民医療生協)が行っている「被ばく健康相談」でも、有所見者の母親などからの相談ケースが増え、地域住民への適切なアドバイスを行うためにも「福島県調査」の小児甲状腺超音波検査結果と比較できる他地域でのデータの必要性がクローズアップされた。2012年夏には、国も全国4,500人規模の比較調査を福島県外で実施し、20133月末を目途に結果をまとめる方針を明らかにした。「福島中央市民医療生協」と以前から交流のあった神戸の私たち「ろっこう医療生活協同組合」は、全国調査を待たずに先行した調査の依頼をうけた。調査数は限られるが、毎日を不安の中で過ごしている福島の方々に少しでも役立つデータをいち早く返すことを目的に、短期間の調査実施(以下「ろっこう調査」)を決定し、結果をまとめた。

方法

実施期間:2012916日〜2012102

施行医:谷口敏光(*福島県調査で規定される資格は取得していないが、成人甲状腺超音波検査は日常診療で頻繁に実施経験あり)

超音波断層装置:日立アロカHI VISION Avius(*「福島県調査」の装置と同程度の解像度)

探触子:リニア形探触子EUP-L74M135MHz)

検査手順:Bモードにて容積測定、局所所見の位置、性状、サイズの観察。必要に応じ、ドップラーで血流信号の観察。画像は DICOM(静止画)形式で保存。

平均所要時間:110

被検者:「ろっこう医療生活協同組合」関連事業所従業員に趣旨を呼び掛け、承諾を得られる18歳以下の家族を募った。被検者全員、2011311日以降、継続して神戸市内当該事業所に通勤可能な関西圏に在住するものである。

結果

被検者のうちわけ

 被検者は全体で102名、218歳であった。「福島県調査」同様の年齢区分では、1~5歳:21人(女10・男11)、6~10歳:35人(女13・男22)、11~15歳:33人(女12・男21)、16~18歳:13人(女7・男6)、計 102人(女42・男60)と、男児が多く、「福島県調査に比べて5歳以下の比率がやや少ない調査である。

所見のうちわけ

 所見の大半は嚢胞で、内部に不整構造物を有する嚢胞はなく、多くは点状高輝度サインを有する、所謂「コロイド嚢胞」3)であった。その他は、結節1名と甲状腺実質内小石灰化1名であった。なお、結節1名は、長径22mm単発で、自律性機能性甲状腺結節として精査済みである。10歳以下の数人には、甲状腺下極に接する胸腺2)とみられる領域が観察された。

年齢階層別所見の有無の割合

 各年齢階層別の所見の有無の割合を図1に表した。全体で70%近い有所見率となり、5歳以下ではやや有所見率が低い傾向であった。

図1 年齢階層別所見割合

所見判定別うちわけ

 福島県民健康管理調査区分にならい 今調査の比較対照を表1に示した。

表1:福島県民健康管理調査との判定別比較

福島県調査

ろっこう調査

A1

結節や嚢胞を認めなかったもの

57,627

60.05%

99.47%

33

32.30%

99.00%

A2

5.0mm以下の結節や20mm以下の嚢
胞を認めたもの

37,826

39.42%

68

66.70%

B

5.1mm以上の結節や20.1mm以上の
嚢胞を認めたもの

500

0.52%

1

0.98%

C

甲状腺の状態から判断して、直ちに
二次精査を要するもの

1

0.00%

1

0.98%

*福島県調査は 平成23年度と平成24年度を合算したもので、平成24年度は、検査結果が確定している9月28日検査分までの集計4)

嚢胞最大径の分布

 嚢胞が多発することも珍しくないが、「福島県調査」では嚢胞の最大径で集計したデータが公表されている。今回、福島の調査より細かく1mm単位で区分してみると、1mm以下:11.0%)、1.1~2.0mm3130.4%)、2.1~3.0mm2120.6%)、3.1~4.0mm1110.8%)、4.1~5mm32.9%)、5.1~10mm11.0%)で、3mm以下の小嚢胞が多数みられた。

 下極に密集する細小血管に接する場合は血管との判別が難しいケースが数例あった。ドップラーで血流信号を確かめ、血管との連続性も追い、その上でも、判定できない場合は「所見なし」とした。福島県調査との比較対照を表2に示した。

表2:嚢胞最大径を福島県民健康管理調査分類に合わせた比較

嚢胞最大径mm

福島県調査(表1と同期間調査分)

ろっこう調査

なし

58191

56.90%

81.70%

34

33.30%

85.30%

〜3.0

21031

43.10%

53

66.70%

3.1〜5.0

14272

18.30%

14

14.70%

5.1〜10.0

2401

1

10.1〜15.0

47

0

15.1〜20.0

7

0

20.1〜25.0

3

0.01%

0.01%

0

0.00%

0.00%

25.1〜

2

0

95954

102


嚢胞数と分布の傾向

嚢胞数を独自に以下の5型に分類した結果、@片側孤立(左葉、右葉いずれか1個):1413.7%)、A片側複数(左右いずれかに4個以下):76.9%)、B片側多発(左右いずれかに5個以上):3(2.9%)、C両側複数(両葉に合計5個以下)14(13.7%)、D両側多発(両葉に合計6個以上):30(29.4%)となった。さらに、多数の小嚢胞が、「連なる」、「集簇する」「数珠状嚢胞」とも呼べる所見を呈するものが21例(20.6%)に見受けられた。中には嚢胞数を特定できない程の「海綿状」に見えるケースもあった。(図2)その多くは下極が中心で、背側外側辺縁に分布する傾向があった。

2 数珠状嚢胞

「数珠状」の有無できりわけた上で、各年齢階層別の嚢胞数型の割合を図3に示す。

図3:年齢階層別嚢胞数型の割合

考察

所見の大半が嚢胞で、小児の嚢胞について、いくつかの傾向が見受けられた。結節については例数が少なく、傾向などの評価はできなかった。「ろっこう調査」の有所見率は、「福島県民調査」よりもやや高かった。その理由のひとつは、3mm以下の、場合によっては「所見なし」と扱われるサイズの小嚢胞の検出率が、より高かったことが考えられる。3mmを越える嚢胞に限って比較すると「福島県民調査」の方が有所見率がやや高かった。(いずれにしろ「ろっこう調査」では被検者数も限られており、本稿では統計的な有為差等の検定は行わなかった。)いずれの調査も、過去に行われた甲状腺超音波検査のデータ5)、6)よりも桁違いに高い比率になっているのは、超音波検査機器の解像度の進歩によるものであると考えられる。

年齢層別の評価では、5歳までの小児ではやや有所見の割合は少なく、「福島県調査」と同様の傾向であった。嚢胞数に着目してみると、年齢が上がるにつれて多発し、「数珠状嚢胞」所見の割合が高まる傾向も推察される。今回の限られた調査数と1回の横断調査では、嚢胞の「自然歴」ともいうべき変化について述べることは難しく、今後の国による被検者数の多い他地域での調査結果を待たねばならない。さらには、20歳以降のフォローアップ検査の集積など、新たな調査研究も必要であろう。また、嚢胞数や甲状腺内の分布などの詳細な解析を期待したい。何よりも、原発重大事故で被災した福島県民の健康管理を充実させるために、調査が進められるべきである。また、被ばくに日々向き合いながら暮らす福島県民に寄り添った丁寧な調査結果の説明を望むものである。

参考文献:

1)http://fukushima-mimamori.jp/

2)鈴木眞一:日本甲状腺学会雑誌 24 :Vol.3(1)/Apr. 2012

3)甲状腺超音波診断ガイドブック改訂第2版 南江堂 2012

4)http://fukushima-mimamori.jp/thyroid/media/thyroid_status_201211.pdf

5)Mazzaferri EL, et al., N Engl J Med. Feb 25;328(8):553-9, 1993.

6)Ishigaki K, et al.,,Endcr. J,Oct;48(5):591-5, 2001.

*注:東京電力福島第一原発事故によって放出された放射性物質は日本列島全体に程度の差はあれ拡散した。ここでいう「放射能汚染地」は、法令に定められている「放射線管理区域」(放射性セシウムで4Bq/m2以上の表面汚染密度)レベルの汚染という意味で用いている。